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第71回大河内記念賞

電動車向け小型・低損失逆導通IGBTの開発及び高効率製造
(元)株式会社デンソー 妹尾 賢 他4名 

 

1 開発の背景と内容
パワー半導体では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、既に高電圧高電流向け応用で多く使われている。グリーンイノベーションの中、電動車(xEV)が普及しつつあるが、そのキーデバイスであるIGBTは、スイッチング(SW)素子と並列に接続され、インバータ回路やモーター制御回路で、逆方向の電流発生時にエネルギー制御する外付けの還流ダイオード(FWD:Freewheeling Diode)が必要であった。IGBTとFWDの性能を両立させ、小型化低コスト化を達成したのが、両者を一体化した逆導通(RC:Reverse Conducting)IGBTである。開発課題は導通損とSW損の二つの損失の減少とライフタイム制御工程(へリウムイオンや電子線中性子線の注入が必要な特殊工程)削減であったが、新技術としてSMA(Schottky and Multi-layered Anode)構造を取り入れる事で、損失面、生産面の両面で解決した。

 

2 特徴と成果(生産実績を含む)
デンソーのRC-IGBTは①低損失、②小型化・低背化・実装面積削減、③新型構造採用による微細化負担減と工程短縮による高効率生産を達成、④USJC桑名工場等外部Fabへの展開(多拠点化)で300mm工場量産、⑤材料調達リスク減、⑥低コスト等、多くの利点があり、既に、世界累計100万台超の電動車への搭載実績(シェア:国内34%、世界6.4%:2023年時点)を誇る。
開発のポイントはFWD一体化で課題であった損失悪化や生産でのライフタイム制御工程を新規構造SMAで解決した点であり、新規構造(前記SMAに加え、トレンチをストライプ型から格子型に変更したこと)で微細化レスになった点も重要な成果である。
本成果はパワー半導体分野で最高権威の国際学会であるISPSDで最優秀賞W受賞もあり独創性が高い。生産技術面でも画期的で外部Fabの300mm工場で量産され汎用性もある。裏面加工での生産ノウハウに代表される機微技術は秘匿される等オープン/クローズ戦略でも評価できる。

 

3 将来展望
パワー半導体はSiCの開発量産が注目されているが中国メーカー追い上げも急であり、半導体と自動車での日本の優位が懸念される。この中でデンソーはSiCでも技術開発を進めているが、RC-IGBTは差別化要因になろう。半導体だけでなく、成長する電動車での日本の競争力維持やカーボンニュートラル達成にも大きく貢献する。