第52回大河内記念生産賞
トランスファーモールド形インテリジェント
パワーモジュールの開発と生産
1 開発の背景
パワーエレクトロニクス技術の進展を背景として、環境保護の観点から、’90年代に入り、民生分野でも白物家電を中心にしてインバータ化が積極的に展開され始め、家電製品の省エネルギー化実現に向け、インバータ回路のキーパーツであるパワー半導体素子には、低損失化、小形・軽量化、高信頼度化、実装の容易性が強く求められていた。
本業績は、これらの市場ニーズに応えるために、インバータ用パワー回路を構成するIGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)チップおよび還流動作用ダイオードチップと、それらパワーチップの最適駆動・保護機能用HVIC (High Voltage IC)およびLVIC (Low Voltage IC)をトランスファーモールドで一体化したデュアルインラインパッケージタイプのインテリジェント・パワーモジュール(DIP‐IPM)のコンセプトを提案し、これを実現したものである。
2 特徴と成果
・ 先駆的であった。
トランスファーモールド技術は半導体集積回路には使われていたが、パワーデバイスへの適用は挑戦的だった。それは多チップ間の大電流配線やアナログ配線を損なわずに樹脂注入する困難、コンデンサ、抵抗を部品として一切使わない回路方式、放熱問題、多チップ化による歩留まり低下のため、試みてもなかなか実現できず、当時の常識では全く考えられないことだった。
・ シェアが極めて高い。
先駆的に取り組み、数年の差で追随を許さずデファクトスタンダードにした。パワー回路はアナログのため、部品を集めて配線しても調整に時間がかかる。メーカーが三次元電磁界シミュレーションを駆使してモジュール化することで、ユーザーは信頼性ある動作を低コストで得ることができ、パワー回路が格段に使いやすくなった。
・ 社会的に大きな意義を持つ。
インバータ回路は任意周波数の交流を作り、電動機の回転速度を制御する。電気動力変換効率は抵抗制御では50%以下であるが、インバータ方式で96%に向上する。よってインバータ用パワーモジュール普及は省エネルギーに大きく貢献する。
パワーモジュールの国内市場では、’04年度では、インバータエアコンで80%、冷蔵庫で73%、洗濯機で87%の高いシェアを誇り、それらのインバータ白物家電市場では、70%のマーケットシェアを維持している。
3 将来展望
誘導加熱器(IH)市場や産業機器市場への拡大を進めており、’05年度はさらに市場を拡大できる見込みである。
上記のような三菱電機の実績が評価され、DIP‐IPMのコンセプトは競合メーカーも採用するデファクトコンポーネントになり、業界の活性化、レベルアップにも波及効果を与えている。