第52回大河内記念賞
二酸化炭素を原料とする
ポリカーボネート樹脂製造プロセスの開発と工業化
1 開発の背景
耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れたエンジニアリング樹脂として世界中で需要が年間300万トンに達するポリカーボネート樹脂(PC)の製造における従来法は、1)猛毒で腐食性の強い、COおよび塩素由来のホスゲンが原料、2)排出が規制されている塩化メチレンを重合用溶剤として使用し、洗浄後大量の廃水処理が必要、3)製品に微量残存する塩素イオンによる樹脂の品質の劣化、等の重大な問題点を抱えていた。
本技術は、これらを解決するべく、従来にないCO2を原料とした画期的製造法の開発に関わるものである。
2 特徴と成果
本法の最大の特徴は、従来全く使えなかったCO2を原料に用い、非ホスゲン法を確立した点にある。反応性に富むCOと異なり、反応性の低いCO2を活性化するのは困難を極めたが、大量供給可能であるエチレンオキシドによりエチレンカーボネート(EC)とし、a)メタノールによりジメチルカーボネート(DMC)に変換し、b)フェノールとのエステル交換によりジフェニルカーボネート(DPC)として反応性を高めた。次いでc)DPCとピスフェノールとの縮重合によりポリカーボネート(PC)とした。
a)の工程では、従来にない高純度エチレングリコールが効率良く製造できるという副次効果を得た。b)では、低い平衡定数を克服するため蒸留塔内で反応蒸留を行なう高効率リサイクル型連続プロセスを開発した。c)においては、従来の水平攪拌式と異なり垂直線状ガイドを用いる重力式無攪拌溶融重合という画期的な手法によりフェノールが効率良く除去され、塩素を含まず高純度で均一性の高い重合度を持つPC樹脂の低コスト製造を可能にした。
腐食性のない安全で安価な原料の選択、リサイクル式連続プロセスの確立、廃水処理の必要がないこと、閉鎖系であるため原料投入後は製品である高品質高純度エチレングリコールおよびポリカーボネート(PC)のみが排出されること等、全てにおいて創意工夫がなされている。
3 将来展望
廃棄物のきわめて少ない、まさに環境に優しい創造性に富んだ革新技術である。2年後にはライセンスにより世界の25%が本製造法で生産される。近い将来、新設プラントは、殆ど本法が採用される可能性が高い画期的成果である。