第53回大河内記念生産特賞
高品質・高効率・低環境負荷を同時実現する
次世代製鋼プロセスの開発
1 開発の背景と内容
超高級シームレスパイプは、石油の探査掘削、商業採取に必須の製品である。特に高純度、高強度、高耐食性をもつ油井管、ラインパイプでは、要求されるリン濃度は100ppm以下、イオウ濃度は8ppm以下で、住友金属が我が国で唯一世界的な規模で製造している。溶鉱炉で製造される銑鉄には、炭素、シリコン、マンガンに加え、問題となるイオウが200ppm、リンが1000ppm含まれている。従来は、溶銑運搬容器である溶銑台車、あるいは溶銑鍋においてイオウやリンを除去していた。最終的な脱リンと脱炭は転炉で行なうが、生産性、不純物安定度ともに全く不足であった。
住友金属では、運搬容器ではなく、反応容器である上底吹転炉を予備的な脱リンに使うことを世界で初めて工業的に適用し成功した。この反応は低温であるため耐火物のコストもあまりかからず、かつ脱リンが高速度で実行できることが実証できたため、脱リン専用炉を設置し反応を脱炭素と分離した。脱炭素は脱リンの必要がないため、超高速処理を可能とする新型酸素吹きランスを開発し、230トンを9分で処理する超高速精錬を行ない非常に高い生産性を達成した。
また、最終的に脱炭炉のあとに新設計の多目的真空脱ガス反応装置を設置し8ppm以下の極低濃度のイオウを完璧に達成することを可能にしている。
2 特徴と成果
超高級鋼のために必要な極低不純物濃度を“常時”達成しつつ、製鉄所として最高の生産性を実現している。製鉄所としての存立が危ぶまれた時期に、オイルメジャーの設備投資を予測し、専用脱リン炉と脱炭炉を理想的に配置した新たな製鋼工場を稼動し、スーパーメジャーの信用を勝ち取った実績は特記すべきである。住友金属は、スーパーメジャー3社(BP, SHELL, Exxon-Mobil)が使用するこの超高級品を含む油井管のうち、直近では約40~90%の納入実績を持つ。また、STATOIL(ノルウェー国有会社)でもそれ以上の比率の納入をしている。いずれも安定した品質の鋼をきわめて迅速に低コストに生産できたためで、本プロセス採用後、著しくシェアが拡大した。現在、住友金属では年間、超高級品を7万トン、高級シームレスパイプを110万トン生産している。それ以外にも、工場の再配置、超多容積スクラップ装入など見るべき改善と発明は大きい。
3 将来展望
すでに極めて高い完成度をもつ生産技術と判断する。現在さらに高強度で高耐食性能を持つ油井管の開発を進めることを計画している。その計画性能は、現状よりも更に厳しい硫化水素環境で最高強度を達成するものである。