第53回大河内記念生産賞
硫安フリーのカプロラクタムプロセスの開発とその工業化
1 開発の背景と内容
合成繊維や樹脂用材料として年間400万トン生産されているe-カプロラクタムは重要な工業原料である。しかしながら、従来法では、中間体のオキシム形成において殆どが、引き続くベックマン転移においてはすべてが無機酸を必要とし、1)耐腐食性プラント機材の使用によるコスト高、2)中和による硫安の大量副生(従来法では、ラクタム1トン製造に際し、硫安1.6トンから4.4トン生成)等の欠点を有していた。
本業績は、これらの欠点すべてを克服し、一段でのオキシム形成と高シリカゼオライト触媒を用いる気相ベックマン転移法を開発した画期的な製造法の開発に関するものである。
2 特徴と成果
従来法の欠点を克服するために提案・検討されたにもかかわらず実用化できなかった硫安フリーの製造プロセスを、これまでの常識を覆す独創的な発想により中性の高性能触媒の開発に成功し、気相ベックマン転移の工業化を世界で初めて完成させた。
プロセスの特徴を以下に示す。
1) アンモキシメーション気相ベックマン転移の組合せによるラクタム製造プロセスの硫安フリー化
2) 高シリカゼオライト触媒の開発と修飾法の工夫による気相ベックマン転移の効率化
3) 気相流動床プロセスの開発と流動床用高活性触媒開発上の工夫
4) 精製プラントの設計と工夫による高品質ラクタム製造の具現化
5) プラントの小型化と耐腐食材料の不使用による設備投資の軽減
以上、酸の使用を回避した斬新な高シリカゼオライト触媒の開発により、独創的な気相流動層プロセスを可能にし、硫安副生を完全に抑制して生産効率の向上と設備投資を含めたコストダウンに成功し、純度および品質も従来製品と比較してより高品質なカプロラクタムの効率的工業生産が可能になった。
3 将来展望
廃棄物のきわめて少ない環境に優しい創造性に富んだ革新的技術で、現在年産8万トンを超え増産体制にあり、新規な合成プラントとしては、今後世界的なスタンダードとなる可能性も高い非常に優れた業績である。