第53回大河内記念生産賞
ITを基軸とした革新的フルモールド鋳造システムの開発
1 開発の背景と内容
大型金型や産業機械・工作機械向けに大型鋳物を迅速かつ安定に供給できることは製造業の競争力基盤として重要である。そのために、鋳物製造の高品質化・短納期化をめざして、CAD/CAMによる模型づくりを基礎としたフルモールド鋳造法を全面的に採用し、従来は単品生産に適しているといわれてきたフルモールド鋳造法による短納期の量産を可能とした。模型づくりのみならず3Dデータを核としてデジタル情報を共有することで鋳造要素技術を統合し、生産性の高いシステムを構築した。
2 特徴と成果
主な技術の内容は以下のとおりである。
1) CAD/CAMシステムによる3Dデータの作成と利用:
鋳物データの60%以上は依然として図面で渡されている。商用CAD/CAMを基にしながら鋳物製造に適するようにシステムのカスタム化を自ら行ない、100%の3Dデータを可能とした。模型製作のみならず、鋳造シミュレーションによるひけ巣予測など付加価値の高い3Dデータの活用を実現した。
2) 発泡スチロールの高速NC加工による模型作製:
模型の分割・NC切削・組立手法、専用切削工具の開発、模型寸法の非接触自動測定、フルモールドプロセスの改善など、職人に頼らない組織的な模型の作成法・プロセスを確立した。
3) 鋳造への水冷却など鋳造技術の開発:
大型鋳物の量産に適した設備が構築されており、水冷却技術や独自の塗型剤などの短納期化・品質管理技術を開発した。
4) 鋳造技術・技能伝承システムの開発:
作業指示や鋳造不具合をデータベース化して、熟練者の知識のデジタル化を図り、現場技術の効果的な伝承を可能とした。
フルモールド鋳造法自体は良く知られた技術であり、またCAD/CAMによる3Dモデル作成も基本的には実用化されている。
本業績は、すべての対象製品についてCAD/CAMによる模型づくりを適用し、2004年には熟練した職人の生産性を凌駕しIT化元年を宣言したこと、また、鋳造シミュレーションや鋳型の水冷却などの要素技術を総合し、フルモールド鋳造法による大型鋳物の高効率な量産を実現したこと、が高く評価される。自動車用の大型プレス金型において国内需要の45%を供給しており、わが国の製造業の基盤を支えるために大きな役割を果たしている。将来にわたってさらに生産拡大が見込まれており、鋳物製造という基盤産業を国内で維持発展させるための重要な技術成果である。
3 将来展望
ITを基軸とする本業績の基本的な考え方や手法は、鋳造業界を始めとして、製造基盤産業に広く展開できるものであり、わが国における新しい「ものづくり」の体系構築において大きな波及効果が期待される。