第53回大河内記念生産賞
抗真菌剤ミカファンギンの原薬生産技術の開発と工業化
1 開発の背景と内容
抗真菌剤の開発は、創薬の観点から極めてチャレンジングな分野に属する。ミカファンギンは、真菌に特異的な細胞壁の主要構成成分である1.3-β-D-グルカンの生合成を阻害する新規作用機序を有したキャンディン系抗真菌薬であり、深在性真菌症の主要起因菌であるカンジダ属およびアスペルギウス属による真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症に優れた治療効果と安全性が確認されている。本剤の製品化のためには醗酵原体、中間体およびミカファンギン原薬が高品質で得られ、生産性が高く、実生産設備での安定的生産が可能な製造法の開発が必要不可欠であった。このため、醗酵、微生物変換反応、合成技術を組合わせて画期的な工業的製造法を確立し、本製造法によってミカファンギン原薬は、医薬品原薬として高品質で安定的に生産することが可能になった。
2 特徴と成果
ミカファンギンの開発の発端は、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)の研究陣によって、福島県いわき市の土壌より分離されたColeophoma empetri F-11899の培養液中より発見されたFR901379である。このFR901379を出発物質として積極的なメディシナルケミストリーが展開され、最終的にすばらしい効果を発揮する抗真菌剤ミカファンギンが開発された。上記メディシナルケミストリーの展開、さらには社会へのミカファンギンの供給に極めて重要な貢献をした技術が、本賞の対象となっている原薬生産技術の開発と工業化である。
この技術の特徴的な点は、
1) FR901379を得る醗酵プロセスを菌株育種による生産性向上や醗酵槽へのフルゾーン攪拌翼導入により工業化スケールでの醗酵の安定化を実現したこと、
2) 約100倍の高活性を示すアシラーゼの開発に成功したこと、
3) 脱アシル体を効果的な化学合成法によりミカファンギンへの変換に成功したこと、である。
ミカファンギンは国産の抗真菌剤として初めて本邦において承認を取得し、2002年から発売された。最近3年間の国内市場占有率は約49%に達し、2005年からは米国でも臨床的使用が開始されている。
3 将来展望
ミカファンギンは現在、欧州、アジア各国で申請中であり、また、適応症の拡大も予想されることから、生産量は増大する可能性が高く、人類の健康への貢献は大なるものがある。