第54回大河内記念生産賞
大型コンテナ船用高強度鋼板の開発と新規船体構造設計
1 開発の背景と内容
1995年頃の建造船から大型化が著しく、従来のパナマ運河を通行できる船幅での最大船型である4,000~5,000TEUクラスを超えるものが出現しはじめ、現時点では10,000TEU超級も出現している。従って大型化するコンテナ船の安全性、耐久性を確保しつつ輸送効率を高めるための船体構造設計が必須となった。
2 特徴と成果
1) 降伏点47キロ級高強度鋼の開発(構造部材としてのクラックアレスト性向上)
1 圧延直後のオンライン水冷の強化と、Ni、Cu等の合金元素の添加により従来の40キロ級の強度を上回る新鋼種を開発した。
2 また、高強度化に伴う(特に溶接部の)靭性低下に関しては、酸化物の微細分散技術や、粒内変態促進技術によりその向上を図っている。
3 さらに素材開発のポイントであるクラックアレスト性に関しては、熱処理と圧延プロセスの改良により向上を図ることができた。
2) 新規船体構造設計(構造としてのアレスト性向上)
1 厚肉鋼板においては、従来の比較的薄い鋼材での知見と異なり、溶接部で発生した脆性亀裂は溶接線に沿って伝播し、容易には停止しないことが本開発で明らかとなった。
2 そのため、船体強度上重要な部材である開発鋼を使用したハッチサイドコーミングと上甲板では、ハッチサイドコーミングどうしの溶接線と上甲板どうしの突合せ溶接線を意図的にずらしている。これにより、例えば上甲板どうしの突合せ溶接部から発生した脆性亀裂は確実にアレスト性の良好なハッチサイドコーミングに突入し、停止することを確認した。
以上、本業績は輸送量の増大と輸送効率の向上のためコンテナ船の大型化とともに構造部材が厚肉化する傾向においてこれによる脆性破壊や疲労破壊の発生を防止するため降伏点47キロ級の高強度鋼を開発し、さらに構造設計と溶接手法に新規の技術を開発して安全性が高く、積載効率と燃費を向上した新しい大型コンテナ船建造を可能とした。
3 将来展望
船舶の輸送効率向上と安全性確保・向上は、船主の最大の関心事である。現状、高強度と優れたアレスト性を両立しているのは本開発鋼のみであり、これに構造としてのアレスト性を組み合わせた安全設計手法を継続的にPRすることで、より多くの船主の理解を進めることによりグローバルデファクトスタンダードとなることが期待される。