第55回大河内記念技術賞
還流型ATM向け海外紙幣汎用識別方式の開発と実用化
1 開発の背景と内容
現物紙幣への信頼感は万国共通であり、世界の紙幣の発券枚数は年々増加している。一方で、ATM犯罪の防止や人件費の削減という観点から、直接の紙幣取扱いを少なくしたいという金融機関の強い要望がある。還流型ATMでは、預け入れられた紙幣の真偽や劣化度などを自動識別し、問題がない場合はその紙幣を支払い用として還流させるため、安全性、利便性、経済性が飛躍的に向上する。
本業績は、経済活動の基盤である還流型ATMの実現とその海外普及のため、各国の異なる稼働環境(偽造紙幣や劣化紙幣などを含んだ多様な紙幣)にも適応できる汎用的な紙幣識別方式を開発し、それを実装した紙幣識別モジュールの量産化を実現したものである。
2 特徴と成果
本汎用紙幣識別方式は、可視光・赤外光センサ、磁気センサなど複数のセンサからの2次元情報を、国内市場で20年以上にわたり培った紙幣識別技術を踏まえ、機械学習手法により自動的に着目すべき特徴点を選択し統計的識別処理を行なうことのできる汎用的なアルゴリズムを内蔵するとともに、数々の紙幣を長期的に安定してハンドリングできるコンパクトな送り機構により実現したものである。
特徴としては、偽造紙幣の高精度検出機能、紙幣の厚さ計測や破れ検出機能、経年劣化、しみ、油汚れなどのある紙幣の検出機能(ユーロ規格Article 6)、特定紙幣の追跡機能(Article 6)などである。
さらに、従来は1ヵ国あたり数ヵ月かかるアルゴリズム開発工数が識別アルゴリズムの汎用化と自動化により1/10に短縮可能となり、新規の偽造紙幣にも3日以内で対応可能となっている。これらの技術により、現在では、海外30ヵ国、200金種以上に対応しており、日本国内市場は勿論、例えば、中国市場においてもトップシェアを確立している。
3 将来展望
本方式で可能となった即応量産化により、還流型ATMは、国内、中国やユーロなど、海外にも広く普及しているとともに、今後もさらなる普及が期待され、人々の安全な経済活動に大きく貢献する優れた業績である。