第55回大河内記念技術賞
最先端LSI量産を可能にしたArFレジスト材料の開発
1 開発の背景と内容
情報化社会の発展の基盤となっているLSIの高密度・高集積化は、シリコン基板上に形成される回路の加工寸法を極限まで微細化する技術によって進展してきた。この微細化技術の核となるのがレジストを用いた光リソグラフィーであり、最先端LSIの製造では回路寸法90nm以下を達成するために波長193nmのArFエキシマレーザが用いられる。従ってこの波長の光を吸収する従来の芳香族系レジスト樹脂に代えて、光透過性でドライエッチング耐性、基板密着性等の広範な要求性能を満足する新規なレジスト樹脂の開発が求められていた。
本研究開発では、これに対応する機能統合型のレジスト材料として最適な分子構造を探索した結果、ラクトン基含有脂環型アクリレート構造レジスト樹脂の開発に成功した。
本技術開発によるレジスト材料は、現在、最先端LSI量産のためのデファクトスタンダードとして供給されている。
2 特徴と成果
本業績は、ArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いる最先端LSIの量産を実現するレジスト材料として、光透過性とドライエッチング耐性に優れた脂環基と、解像性および基板密着性に優れたラクトン基を同一分子内に含み、さらに経済性・量産性にも優れた機能統合型のアクリレート型レジスト樹脂を、独自の材料分子設計に基づいて開発したものである。
現在、ArFレジスト材料によって製造される回路寸法90nm以下の最先端LSIの市場規模は、約1兆円に達すると推定されているが、国内外のレジスト製造メーカにライセンスされた本技術に基づくレジスト樹脂の2007年度推定出荷額は、200億円に達し、国内外当該レジスト市場での占有率は80%を超えている。
本業績は、わが国でこれまで推進されてきた先端機能性高分子材料開発の成功例としても高く評価される。
3 将来展望
本技術は、最先端LSI製造に不可欠なレジスト材料を独自に開発したもので半導体産業の発展に直接貢献している。また回路寸法65nmの次世代LSIの製造にも適用が開始され、さらに45-32nmの数世代先のLSIの製造にまで適用されようとしており、今後も高性能感光性樹脂開発を先導するものと期待される。