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第71回大河内記念技術賞

錠剤賦形材料としての高成形性・高流動性結晶セルロースの開発 
(元)旭化成株式会社 大生 和博 他2名

 

1 開発の背景と内容
結晶セルロースはパルプを原料として加水分解によりセルロースの結晶領域を取り出したものである。結晶セルロースは白色の粉末状粒子であり、水に不溶で、味はなく、化学的にも不活性なため、薬物と混合した場合にも変化が無く、優れた賦形剤として広く医薬品の製造に使用されている。賦形剤の製造においては結晶セルロースの粉体粒子の成形性や流動性が重要になる。しかし、従来は成形性と流動性をそれぞれ高いレベルで両立することは困難であった。本業績は、粉体粒子を従来に比較して成形性・流動性をより高いレベルで両立した錠剤賦形材料「セオラス(UFグレード)」の製品開発に成功したものであり、これにより主薬含有量の多い錠剤、より小型化した飲みやすい錠剤の製造に貢献した。

 

2 特徴と成果
本製品「セオラス(UFグレード)」の開発では、結晶セルロース粒子を適切な空隙を持つ多孔質状の粒子形状にすることにより、これまでトレードオフの関係であった成形性と流動性を高いレベルでバランスさせることに成功している。本製品の生産は大きく2段階に分かれており、原料パルプの加水分解と乾燥による結晶セルロース粒子の形成からなっている。それぞれの段階での高度な工夫により多孔質状の粒子の製造に成功している。具体的には最初の段階では、加水分解の反応条件によって1次粒子を制御、また次の段階ではスプレードライ乾燥によって2次粒子を制御することである。結晶セルロース製品全体の旭化成のシェアは国内の製薬産業で90%である。その中で本製品開発によるUFグレードは15%である。2023年の生産量は約1000トン、売り上げは年間19億円である。

 

3 将来展望
本製品は、2008年の製造販売の開始から高機能性が評価され、顧客は増えており、医薬品の錠剤生産には欠かせないものとなっている。増大する注文に対応して岡山県に第2工場を最近建設した。海外への展開も現在進んでいる。このように本開発は人類の健康・医療問題に貢献する技術であると考えられる。